一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約



 そのアニメは、男が見るにはとても恥ずかしい内容だった。

 一人の女性を巡って、イケメンと思われる男どもが寄ってたかってアプローチしまくるのだ。みんな背後にキラキラしたものを背負っていて、やたらと恥ずかしい言葉を使いたおす。

 七人の男性が、作曲したり、踊ったり、楽器を弾いたり、ツンデレな態度で迫ったり、ただ大声で気持ちを叫んだり。

 壁ドンやハグのシーンは心当たりがあってギョッとしてしまったが。

 しかし、どんなアプローチを受けても、ヒロインは一旦頬を染めるものの、勘違いだとか気のせいで片付けていく。

 なんとなく、美月みたいだなと思った。

 俺もこの生活が始まってから、割と露骨に想いをのせて行動したつもりだった。
 だが、美月は全て、「婚約者を演じるための練習」だと思い込んでいるようで。

 どうしたものか。

 このアニメだって、誰もヒロインとの関係をはっきりさせないじゃないか。顔を赤くしてくれるけれど、男に慣れていないだけかもしれない。

 いっそ全て奪って自分のものにしたい。

 でもそうしたら、たぶん永遠に彼女の心は手に入らないだろう。

 どうしたら、君は俺を好きになってくれるのかな。

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