一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約


「なんで告白しないの?」
「こわいんだと、思う」
「振られたって諦めなきゃいいじゃん。高峰さんは押しに弱いって愛海ちゃん言ってたし、振り向いてくれるまで押せばいいじゃん!」
「えっ! 押しに弱いって、誰かに押されてるの? 他の輩が美月に迫ってるの? 誰?!」
「さぁしーらなーい♪」

 コイツー! 昔から大事なことは言わない奴だった!

 美月が他の男と会ってると考えるだけで、嫉妬で身体が引き裂かれそうだ。

「……帰る」
「まぁ待てって」

 奈良崎が立ち上がろうとする俺の肩を掴んでそれを阻止した。そして緩やかに笑った。

「くくっ。お前がそんなに取り乱すの初めてみたよ」
「お前も愛海さんと誰かが今お茶してる妄想とかしてみろ! 同じだろ!」
「同じじゃないよ」

 何気なく悪態をついたら、意外にも真剣な眼差しで否定された。いつも茶化してくるコイツにしては珍しい。

「俺は愛海ちゃんを側で一生幸せにするって、二度と離れないって約束した。言葉にした。愛海ちゃんは承諾した。だから俺たちは契約関係にある」

「なんだよ弁護士みたいなこと言うな」

「ははっ。弁護士だからねー。……お前は違うだろ。まだ何も伝えてないんだろ? 周りだけ固めても、当人同士の約束がなければ、彼女の未来は貰えないよ」

「……分かってるよ」

 分かっている。
 でも、この棚から牡丹餅な状況が夢なんじゃないかって、今でもまだ疑いたくなるんだ。
 そして、自分の部屋で眠る彼女を見るたび、この夢が醒めないように祈ってしまう。
 言葉にしてはっきりするのを、躊躇ってしまうのだ。

「よし! 愛海ちゃんおススメのアニメを見ます!」
「はぁ?」

 唐突に奈良崎がDVDを取り出した。
 色んな髪色の男たちが、キラキラした笑顔で描かれているパッケージ。

「もう女子のキュンが詰まってるんだって! それを参考に高峰さんを押して押して押しまくれ!」

 愛海さんはウンウンと頷いている。これは、従うしか無さそうだ。

「……分かりました……」
< 84 / 142 >

この作品をシェア

pagetop