legal office(法律事務所)に恋の罠
「直美、ここでそういう話はちょっと...。今日は奏さんに助けてもらったの。だから、その...大丈夫だから」
珍しく和奏が眉間にシワをよせて困っている様子を見せ、直美は驚いた。
「へえ、奏さんがねえ...。山崎家の本命馬は伊達じゃなかったってわけか」
「本命馬?」
首をかしげる奏と和奏に
「あー、いいの、いいの。気にしないで。それより奏さん、約束ですよ。これ以上、この件で宇津井を和奏に近寄らせないで下さいね。あんまりしつこいときは、警視庁、女性担当、人身安全対策チームの私にお任せを」
そう言って、直美は頼もしく胸を叩いた。
それを見てあどけなく笑った和奏を見て、奏の胸は忙しなく高鳴った。
その後、
直美の計らいで、書類の引き渡しは、晴臣だけで行われた。
晴臣の説得で、なんとか将生も署名・捺印に応じたらしい。
そして、晴臣も、今回は将生の保釈金の支払い願いには応じず、刑期を終えて出所するほうを選択したようだ。
奏と和奏は、書類を持って山崎法律事務所に向かっていた。
現在、夕方の17時。
和奏が書類をまとめ終えるのは20時位になりそうだ。
奏も今日は、1日莉音の事後対応に追われて、ホテルの仕事は何もできていないはずだ。
「奏さんも今日はお疲れのことでしょう。奏さんのご相談は明日以降でも・・・。」
「いえ、和奏さんがお疲れでなければ今晩の方が都合が良いのですが」
和奏の言葉を遮って、奏が間髪入れずに畳み込んでくる。
「私にとってはこういったことは日常茶飯事ですので、疲れてはいません。しかし、奏さんは違うでしょう?」
奏を気遣ってくれるのは嬉しいが、男嫌いの和奏がせっかく奏の話に耳を傾けようとしているのだ。
明日になったら気が変わって、断りの返事を寄越すかもしれない。
「いえ、私も立場上、深夜に及ぶ商談やお付き合い、交渉事には慣れています。疲れよりも、和奏さんとの歓談の機会が失われる方が辛い」
奏の率直な言葉が、何かと和奏の琴線に触れる。
"この男性なら信じられるのではないか?"
と、いう思いに引き摺られそうになる。
しかし、今日会った宇津井のニヤニヤした顔がその思いを無惨にも掻き消してしまう。
「では、事務所でお話を伺うことで・・・」
「いえ、それではお互い腹を割って話せません。お食事がてら話ができませんか?莉音と和奏さんの秘書の湊介さんが一緒でも構いません」
和奏はその言葉を聞いて、心から安堵していたが表情は変えずに淡々と告げた。
「それならば、当事務所が贔屓にしている和食のお店でよろしいですか?」
「ええ、20時頃にお迎えに上がります」
この時点で、和奏は主導権を奏に完全に握られてしまっていた。
いつもならこのように、言いくるめられて流されるようなことはないのだが、
もしかすると
"この人なら"
と淡い期待があったかは、定かではない・・・。
珍しく和奏が眉間にシワをよせて困っている様子を見せ、直美は驚いた。
「へえ、奏さんがねえ...。山崎家の本命馬は伊達じゃなかったってわけか」
「本命馬?」
首をかしげる奏と和奏に
「あー、いいの、いいの。気にしないで。それより奏さん、約束ですよ。これ以上、この件で宇津井を和奏に近寄らせないで下さいね。あんまりしつこいときは、警視庁、女性担当、人身安全対策チームの私にお任せを」
そう言って、直美は頼もしく胸を叩いた。
それを見てあどけなく笑った和奏を見て、奏の胸は忙しなく高鳴った。
その後、
直美の計らいで、書類の引き渡しは、晴臣だけで行われた。
晴臣の説得で、なんとか将生も署名・捺印に応じたらしい。
そして、晴臣も、今回は将生の保釈金の支払い願いには応じず、刑期を終えて出所するほうを選択したようだ。
奏と和奏は、書類を持って山崎法律事務所に向かっていた。
現在、夕方の17時。
和奏が書類をまとめ終えるのは20時位になりそうだ。
奏も今日は、1日莉音の事後対応に追われて、ホテルの仕事は何もできていないはずだ。
「奏さんも今日はお疲れのことでしょう。奏さんのご相談は明日以降でも・・・。」
「いえ、和奏さんがお疲れでなければ今晩の方が都合が良いのですが」
和奏の言葉を遮って、奏が間髪入れずに畳み込んでくる。
「私にとってはこういったことは日常茶飯事ですので、疲れてはいません。しかし、奏さんは違うでしょう?」
奏を気遣ってくれるのは嬉しいが、男嫌いの和奏がせっかく奏の話に耳を傾けようとしているのだ。
明日になったら気が変わって、断りの返事を寄越すかもしれない。
「いえ、私も立場上、深夜に及ぶ商談やお付き合い、交渉事には慣れています。疲れよりも、和奏さんとの歓談の機会が失われる方が辛い」
奏の率直な言葉が、何かと和奏の琴線に触れる。
"この男性なら信じられるのではないか?"
と、いう思いに引き摺られそうになる。
しかし、今日会った宇津井のニヤニヤした顔がその思いを無惨にも掻き消してしまう。
「では、事務所でお話を伺うことで・・・」
「いえ、それではお互い腹を割って話せません。お食事がてら話ができませんか?莉音と和奏さんの秘書の湊介さんが一緒でも構いません」
和奏はその言葉を聞いて、心から安堵していたが表情は変えずに淡々と告げた。
「それならば、当事務所が贔屓にしている和食のお店でよろしいですか?」
「ええ、20時頃にお迎えに上がります」
この時点で、和奏は主導権を奏に完全に握られてしまっていた。
いつもならこのように、言いくるめられて流されるようなことはないのだが、
もしかすると
"この人なら"
と淡い期待があったかは、定かではない・・・。