legal office(法律事務所)に恋の罠
「山崎先生、湊介さん、金曜日はお世話になりました」

書類から目を離して、チラッと出勤してきた二人を見た和奏は怒っているようにも見えるが、他人にはわからない程度の変化だ。

「なんの企みがあって私を桜坂CEOと接触させようとするのですか?」

庄太郎も湊介も、笑いながら和奏に近づく。

「弁護士となって和奏ももう4年だ。これまでは女性のみに対応するだけでもなんとかなっただろう」

庄太郎はいつになく真面目な顔で告げた。

「これからも弁護士として働き続けるつもりなら、いつまでも私や湊介に頼り続けるわけにはいかない。女性から持ち込まれる相談には、ほぼ男性問題が絡んでいるからだ」

女性専任弁護士と謳ってはいても、実際は男性に対応しなければならないし、複雑なケースでは男性からの暴力や暴言にさらされることもある。

「もう、十分に時間をかけ知識も身に付けたし、経験も積んできただろう?和奏のビジネスパートナーとしても相談相手としても、桜坂CEOならこれ以上の適任はいないと判断したからこの話を受けたんだ」

本当はそれだけの理由ではないのだけれど、そこは和奏に敢えて知らせる必要はない。

「莉音ちゃんにも聞いたけど、奏さんはシスコンを拗らせぎみで、女性関係の問題を起こしたことは皆無だそうだよ」

それは和奏にとって不要な情報ではあったが、本件に対する庄太郎の真意がわかって、改めて和奏はこの依頼に真剣に取り組もうと覚悟を決めたのだった。
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