legal office(法律事務所)に恋の罠
「奏さんて、気障なんですね」

運ばれてきたカクテルを手にして、和奏ははにかんで言った。

「気障だなんて、こんなこと、和奏さん相手にしかしませんよ」

和奏と違って、奏は余裕でカクテルを楽しんでいるようだ。

「全国や海外のホテルを回ると、そこそこで売りにしているテナントやショップ、サービスは違う。当ホテルにも活用できるものはないかと調べているうちにカクテル言葉を知った。それだけですよ」

ブルドックを口にする奏は、本当に美しくて頼りがいのある男に見える。

"信じてもいいのだろうか・・・?"

アルコールと一緒に、忘れていた恋心がぐるぐると和奏の胸の中を満たしていく。

「私の話を聞いたら、宇津井の仕掛けたゲームから本当に抜け出せなくなりますよ」

「望むところだ。負けるつもりは更々ない」

奏はグラスを置いて、テーブル越しに和奏の両手をギュッと握った。

「初めて会ったときから君に惹かれていた。君の抱える闇も、迷わせる何かも、そこからすべて解放してあげたい」

和奏は、しばらく奏の真剣な瞳をじっと見つめ返していた。

"この人は信じられる"

出会ったときから運命を感じていた、と言ったら誰かが笑うだろうか?

もしかしたら、庄太郎も湊介も、小池だって、奏と和奏の縁を取り持とうとしているのかもしれない。

賢い和奏はそんなことにも、本当は・・・気づいていた。

後は受け入れるだけ・・・。

ダイニングバーの個室は、大事なお客様をもてなすために周囲のテーブルとは少し離れて設置されており、防音もバッチリだ。

「昔話を聞いてくれますか・・・?」

奏は頷いて席を立つと、和奏の横に回り、同じソファの隣に腰かけた。

左手と右手は繋いだまま。

和奏は、ゆっくりと話し始めた。



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