legal office(法律事務所)に恋の罠
「宇津井ね、営業だって言ってたわ。昨年、弁護士になって大手の弁護士事務所に就職したからご挨拶にって」

和奏は、握りしめていたカクテルグラスを 無意識に握りしめていた。

「そして、格安でいいからこの店の顧問弁護士になってあげてもいい、とかなんとかほざいてた。もちろん、速攻で断ったわ」

和奏が弁護士になって5年目。

その間、宇津井は大学院に残って勉強していることは知っていた。

なかなか司法試験に受からない宇津井は、この店にも、和奏の周辺にも現れることはなかった。

「山崎さんのお陰で、宇津井もこの店に出入りすることがなくなってたのに、性懲りもなくまた現れるなんてね」

和奏は過去の封印していた日々を思い出して、一瞬苦痛な表情をした。

しかし、モヒートを煽り、そのグラスを置いて一息つくと、もとの表情に戻っていた。

「和奏さん、大丈夫ですか?」

奏の優しく労るような言葉に、ボーッとしていた和奏はハッと我に返った。

「大丈夫かと聞かれたら、大丈夫ではないかもしれませんね」

微笑む和奏に、奏がおどけて言う。

「私でよければ力になりますよ。こう見えて意外と顔が利くんだ」

奏の言葉に、和奏が声を出して笑う。

「世界規模のホテル王に"こう見えて"とか"意外と"なんて言葉、似合わないわ」

花が綻んだように声を出して笑う和奏は、アルコールが入ると素直になるのは本当のようだ。

「吉村さん、彼女にスレッジハンマーを。私はブルドックで」

カクテル言葉を理解した吉村は、

「和奏ちゃん、桜坂さんはとても素敵な方ね。カクテル言葉を調べて、今日からは素直になりなさい」

と席をたった。

スレッジハンマー

"心の扉を叩いて"

ブルドック

"あなたを守りたい "

吉村の言葉に、首をかしげながらもスマホで検索する和奏。

愛の言葉を囁くのではなく、和奏の心に寄り添おうとしている奏の気持ちに、和奏は泣きそうになった。
< 49 / 107 >

この作品をシェア

pagetop