legal office(法律事務所)に恋の罠
「林美麗は中国語、広東語が堪能なため、海外のお客様に対応してもらうために、この春から採用した派遣社員だ」

奏の言葉に、黙りこんだ宇津井が視線を向ける。

「彼女は日本のあちこちで詐欺や情報漏洩、ホテルの美術品等の盗難などに荷担している。彼女の得意とするのは変装らしい。当ホテルでも勤務時間外にそうした犯罪を実行する姿が監視カメラにも残っていた」

宇津井の目は虚ろにさ迷っている。

「林美麗の所属する犯罪組織にも顔の効くアジアの首領がいる。彼にかかれば、林美麗の居場所もすぐに特定できる。今頃、ボスに捕まって痛い目にあってるだろうな」

そういう奏に、宇津井は、諦めたように蔑んだ顔を向けて笑うと

「・・・俺を起訴したければすればいいさ。好きにすればいい。逃げも隠れもしない」

と言った。

「起訴だけで済むと思うか?和奏の数年間と小池くんや関係のない男性達の精神的苦悩をどう考える?」

山崎の言葉を聞いても、宇津井の心には響かない。

「全部和奏が悪いんだろ。俺を受け入れていればなんの問題もなかった。俺を馬鹿にして、こけにした罰だ」

唾を吐きながらなじる宇津井を見て、和奏の顔は苦痛で歪んだままだった。

「弁護士法56条により、弁護士は、弁護士法や所属弁護士会・日弁連の会則に違反したり、所属弁護士会の秩序・信用を害したり、その他職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったときに、懲戒を受ける。宇津井の行為はこれに該当する」

これまで発言を控えていた長谷川が口を挟んだ。

「私も、山崎から宇津井の悪事を聞き及んではいたがここまでとは・・・。T弁護士会会長として弁護士会に持ちかえり、懲戒委員会にかけることにするよ」

処分には、

弁護士に反省を求め戒める "戒告"

弁護士業務を行うことを2年間禁止する "業務停止"

弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動はできなくなるが、弁護士となる資格は失わない "退会命令"

弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動ができなくなるだけでなく、3年間は弁護士となる資格も失う "除名"

の4つがある。

奏と和奏の訴え次第では、退会命令もしくは除名されるのが濃厚だろう。

「宇津井、苦労して弁護士資格を取ったんだろう?夢谷さんに固執して、このまま人生を棒に振る気か?いい加減目を覚ましたらどうだ?」

長谷川に諭され、唇を噛み締める宇津井からは、やはり最後まで謝罪の言葉は聞かれなかった。

女性スタッフが退室し、宇津井の処分は長谷川に任せることとなり、会議室は静寂を取り戻した。

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