ハニーレモンの太陽。


「失礼します」




保健室の扉を開けるなり、独特な薬品の匂いが鼻をくすぐった。



「いまセンセーいないよ」

「…そうですか」




中に保健の白井先生の姿は無く、着崩した制服に片手を突っ込んでスマホをいじる男子が一人いるだけだった。



「体調不良?」

「え…まぁ、そんなところです」

「おれ、保健教諭代理」

「え?」

「座れば?」



スマホから視線を外さないまま、ソファを指差してそう言われた。



「…はい。」

「ん、体温計」

「ありがとうございます」




しばらくして、ピピピッという電子音が鼓膜を揺らした。

やけに大きな音に聞こえて、少し驚く。



「何℃?」

「36℃…です」

「熱は無いね」



そこでようやく、彼は視線を私に向けた。



「…前髪、邪魔じゃないの?」

「…邪魔じゃない。これが好きなんです」

「ふうん。君、名前は?」

「え」

「これ、保健室利用ノート。書いて」

「あ、はい」




言われるがまま、ノートにペンを走らせる。
すると彼は、体を前に倒してのぞきこんできた。



「…みさくら?」

「みお。ひやまみお。」

「なるほど。俺は栗原。よろしく」

「よ…ろしく…?お願いします」

「敬語辞めね?桧山、2年だろ?俺も2年」

「あ…うん。わかった。」



ん、とだけ言って、そこからは何も話さない。
栗原くん…も、体調不良なのかな。




「栗原くんは大丈夫なの?」

「言ったじゃん、おれ、保健教諭代理って」

「本当なの?!」

「……あんたお人好しかよ。」

「へ?」

「ただのサボり。保健教諭代理とか、サボりを言いように言っただけ」
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