世継ぎで舞姫の君に恋をする

35、勝負1

王子たちは朝から離宮の回りだけでなく、山のなかの小道を走る。
それが終ると、ひと息ついて体術の取り組み。
王子は基本ができていないということで、受け身から行う。
ひと息ついて、今度は武器の扱い。
剣術、クロスボウ、槍。
それは、馬上でも行う。


雑務要員のカカは守り人のゴメスについて離宮の山盛り積まれた薪や暖房のことや、すきま風の修理、そして仕掛け罠の巡回に付き従っていた。
仕掛け罠には、ウサギや時に猪、鹿も捕らえられる。
捌くのもゴメスは一流だった。
はじめはこわごわだったジャンも、ゴメスに捌くのを手伝い学ぶ。


朝はめいめいが厨房にばらばらとやってきては、ジャンやユーディアと軽口を叩きながら食べ、昼御飯用の肉も野菜もたっぷりのサンドイッチを持っていく。
昼は遠出の場合もあるので、いちいち戻ってくることのないようにとのジャンの配慮である。
夜はジャンとユーディア、それにカカで食事の用意をして見張りを除いて広間で全員が一緒に食事をすることが習慣になっていた。
それに遅れたものは、厨房でいただく。

王子と騎士候補たちの距離はどんどん縮まっていく。
王子は長く染み付いていた何もできないお坊っちゃんという認識は変わってきているが、弱い王子の認識はなかなか変わらないのであったが。

それとともに、騎士候補たちの性格もわかっていく。
トニーとベッカムが選抜しただけあって、トニー隊のオレンジの制服組は、物静かで穏やか。
ベッカム隊の緑は、声も態度も大きな自信満々。
隊長の性格と好みを見事に現した人選である。

ユーディアも側仕えの仕事もおやすみだった。
「なんでも好きなことをしたらいいよ。だけど、一人では行動しないで欲しい」
なので、ジャンの仕事やゴメスの仕掛け罠の巡回についたりすることにする。
離宮生活も落ち着いた数日後には、ジプサムは、はにかみながらユーディアに言う。

「厨房での朝ご飯は、わたしと一緒に食べないか?わたしが行くまで待っていて欲しい。
王宮ではわたしがいつも先だっただろう?ユーディアはいつも厨房で食べていたから」

そういうことで朝は、ユーディアはジプサムと大きなテーブルの角に座る。

夜は、ユーディアは一番離れた席に座る。
食事中は国の問題のこと、将来のこと、家族のこと、さまざまな話がなされていた。
時折、ユーディアを真っ直ぐ見つめるジプサムがいる。
ユーディアは主に聞き役であるが、辺境にすむモルガンをはじめ、隣国を下に見るような意見に関しては、口を挟まずにはいられない。

「そういう考えをしているから、いつまでたっても辺境での小競り合いがつづくのではないの?強国だから力でねじ伏せるのではなく、どんな相手でも対等の立場に立たないと、いつまでたっても争いはなくならない」
ユーディアはさらりという。
騎士候補の中でも緑の制服のベッカムの下にいたものは、気性が荒い。

「なんだって?最後は勝ったものが正義だ」
静かに諭された緑の制服のルーリクが即、イラッと反応する。
「勝ったら正義だと本当に思っているの?」
ユーディアは真っ直ぐに言い返す。

「山賊を討伐したあなたたちは勝利したけど、山賊にも正義はあったよ?
正義は見方を変えるとどこにでもあるし、正義を振りかざすのは危険ではないか?
自分たちの苦しさをきいてもらえず、生きるためにやむにやまれず山賊になり、同じ思いをベルゼラにさせようとした弱者の声を、あんたたちは聞いたんだろ?」

ルーリクは机を叩き立ち上がった。
いかつい体。彼は自分が10人の中で1番強いと自負している

「偉そうな口をきくな!ただの奴隷上がりの側仕えの癖に!」
その言葉にルーリク以外の全員がヒヤッとする。
同じテーブルにジプサム王子もいるのだ。
王子は静かに聞いている。
「おい、ケンカをしたいなら俺が買うが?」

ブルースが口を挟む。
ルーリクは何かと、弱い立場のものに対して思いやりがない発言をする。

「お前はそういえば、あのときもこいつをかばっていたな!こいつもあのときは戦士の頭をしていた!戦士なら俺と勝負をしろよ!生意気なことは俺に勝ってから言え!
もっとも、今は腑抜けかもしれないがな!」
「ほう?お前、あの時あそこにいたのか?」
ブルースの目に危険な色が帯びる。

彼には毎日のトレーニングばかりで、刺激がなさすぎて、丁度10日目に日頃の鬱憤が噴出したようだった。

「え、、勝負?それは、、」
ユーディアは迷う。
しばらく実戦から遠退いている。

「うるさいし、付き合ってやれよ?」
ベッカム隊の五人は、ユーディアが完膚なきまでにルーリクにやられれば、もう、ルーリクが王子の特別扱いのユーディアに怒ることもないと思う。
そして、この側仕えの美人も、これからは言葉に気を付けるだろう。

トニー隊のギースやハメスは顔を見合わせた。
「おい待てよ、ルーリク。はじめからわかっている勝負はしなくてもよいだろ?」
ギースはいう。
「こいつが生意気な態度を改めようとしないから、わからせてやる!」
ルーリクの鼻息は荒い。
「わかった、今回は俺は手を出さない。ユーディアとルーリクの勝負だな」
それを聞き、ブルースが受けてたった。

ジャンはその成り行きをハラハラと見守っていた。
彼も同じテーブルのユーディアの隣の席が定位置である。

「ブルースがユーディの代わりに受けてたってどうするんだよ!実際に勝負は、こいつがするんだぜ??」

まして、ユーディアは女の子である。
同じ部族のブルースが知らないなんてことはないはずだった。

「本当にするの?」
ユーディアも少し不安げな表情を見せた。
「弓、槍、体術でやるか?」
それまで黙っていたジプサムもなぜか乗り気であった。
「勝手に決めないでくれる?」
「死にはしないだろ?」
とブルース。
不服なユーディアを残して、勝負は翌朝に決まる。


成り行きを見守っていた騎士候補たちは、ボロボロになる側仕えが目に浮かぶ。
ただひとつ、彼らにはわからないことがあった。

この美人を大事にする王子がルーリクとの勝負を許したことが、不可解でならなかったのだった。






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