【完】さつきあめ〜2nd〜

大好きだった人の、どうしても欲しかった気持ち。
沢山の夜の中に嬉しい気持ちも切ない気持ちも置いてきた。
傷ついて悔しくて悲しい日も、優しくなって嬉しい気持ちになった日も、わたしの初めての感情の中にこの人はいつだって中心にいた。

喉の奥からこみ上げてくるものがある。
もう一度光の目を見たら、こみ上げてくるものが止まらなくなるのが分かった。

「困るよ…困る……」

光の前で何度も涙を流した。泣きたくないと思えば思う程涙が零れ落ちた。
でも、もう、わたしはあの頃の光だけを一途に想っていた頃の自分じゃない。

「困っていても、待つよ」

光の熱い手が、わたしの頭を撫でる。
大好きだった体温も、今は痛い事ばかり。

涙で言葉にならないわたしに、それでも光は優しく微笑む。

「夕陽が俺をずっと待っていてくれたように、俺もずっと待つから。
夕陽が辛くなった時でも、悲しくなった時でも、俺を利用してもいいから…。それでも夕陽と一緒にいられるだけで俺は嬉しいんだ…」

辛い時も悲しい時も、一緒にいてほしい人なんて光だけだった。あの頃。
何を捨てても、手に入れたかった未来が、目の前にあった。
持っていた薔薇の花束。ちくりと指に鈍い痛みが走った。それでも何食わぬ顔をして、七色の薔薇はその美しさをただ称えているだけだった。

無限の可能性。奇跡。
何を思って、朝日はわたしのこの花を贈ったのだろう。
悲しくなって、辛くなる日も、涙に明け暮れる日も、もう二度とわたしは朝日に甘えられない。

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