【完】さつきあめ〜2nd〜
それでも朝日はレイの横で座っているわたしに近づいて、朝日の甘い匂いが揺れる。
「さくら、元気か?」
何もなかったようにそう聞いてくる。けれど、わたしに話をかける朝日は、もう昔の朝日じゃない。
わたしの前で困ったような笑顔を浮かべて、まるで扱いに困ると言わんばかりと、朝日らしくない遠慮した態度。
わたしたちは、いつからこんな風に他人行儀になってしまったんだろう。
言いたい事を言い合って、怒ったり笑ったりした日々にはもう戻れない。
「別に元気です」
「そうか、元気なら別にいいけど。ちゃんと食ってんのか?」
「食べてますよ…そんな事、あなたに関係ない」
「あぁ…そうだな…なんかごめんな」
言いたい事はそんな言葉じゃないのに、朝日を前にすると可愛くない事ばかり。
わたしが双葉のナンバー1じゃなくなった事には触れもしなかった。そもそも朝日はわたしになんか期待もしていないのかもしれない。それもすごく悔しくて、朝日の側にいる事が出来ないのならば、朝日のお店を支える人間になりたいって思っているのに、それさえ果たせない自分が悔しくて。
「会長~!見て見て、このワンピかわいくな~い?」
美月がやってきて、朝日は逃げ出すようにお店から出て行った。
朝日が出て行ってすぐに、美月はソファーに腰をおろし、わたしへと視線を移して、切れ長の瞳を揺らしながら微笑んだ。