【完】さつきあめ〜2nd〜
わたしたちの街には、5月の始めに桜が満開になる。
気まぐれな春の雨が彼女の肩を濡らしていく。
それでもわたしへ笑顔を向ける彼女を見て、なんて雨の似合う人なんだろうと思った。
5月の雨
鮮やかな赤い傘
濡れた彼女の左の肩
わたしへ向けられた温もりも、笑顔も、あの日の雨へと消えていったままだった。

誰もが傷を抱えて生きている。
でも他人の傷は他人の物。
自分の傷はこんなに痛い。

他人の傷も自分の傷のように考えれるくらい優しくなれていたのなら、世界はどれだけ美しかっただろうか。

しかしわたしたちはその術を持たない。
だから人はこんなに傷つけあう事しか出来ない。

わたしが大切だった人も、大好きだった人も、愛した人も
憎んだ人も、羨ましかった人も、嫌いだった人も
誰しもが人には見せぬ傷を抱えていた。


あの頃のわたしは、自分の傷にだけ敏感で
あなたの苦しみさえ理解してあげられなかった。


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