【完】さつきあめ〜2nd〜

「はぁ~美味しかったですねぇ」

わたしはその日、双葉で出会ったとある芸能関係の会社の重役の人と同伴していた。

「さくらちゃんお寿司好きだねぇ~!」

「お寿司大好きで~す!今度水族館に行くんですよね~!
見るのも食べるのも好き~!」

「へぇ~水族館?彼氏とデート?」

「やだー彼氏なんていません!」

こんな会話、この仕事をしていたら当たり前だけど、何となくいまの状況では胸がちくりと痛む事があった。

「さくらちゃんくらい可愛かったら当然彼氏いるでしょ。
つーか水族館いいね!俺も今度娘連れて行こうっと」

他愛のない話をして、お店へ向かう途中。
お店の前のビルの道で足を止める。
ビルの陰に、見慣れた人がいる事に気づいた。

「……佐竹さん……」

わたしが声を掛けると、こちらに気づいた佐竹が近寄ってきた。
肩を掴まれて、びっくりした。
肩を掴まれた事にもびっくりしたけれど、今までに見た事のなかった形相をしていた佐竹に驚いた。
くたびれたスーツに、生気のない顔。わたしを見つめる瞳が血走っていた。

「さくらちゃん……俺…何かお店出禁になったみたいで…」

「あの…あの…あたし…」

「まさか美月ちゃんが俺を裏切るわけないと思うんだけど…
お店側に何か言われたんだろうか…。美月ちゃんとも連絡が取れなくなって…」


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