【完】さつきあめ〜2nd〜
光SIDE②
光SIDE



いつからだろう。
君が、違う誰かをいつも目で追っていると気づいたのは
それにすぐに気づいたのは、俺が見つめる先にいつも君の姿があったからだ。
誰の前では本当に笑っていて、誰の前では作り笑いで、誰といる時が幸せそうで、そんな事は本当はどうでも良くって
自分の手の中に収めていると思っているその全てすら幻想だと思える日があった。

どこまでも真っ直ぐに生きれない自分。
だからいざとなる時にいつだって大切な物を推し量る事が出来なくて、意味のない物ばかり選んでしまう癖がある。

’僕は朝日くんだって守りたいんだ’

いま思えば、笑える。
お前が守りたかったものは家族ではない。綾でも、兄貴でもない。もちろん母親でも父親でもなくて
それはさくらでさえ無かった。
俺が守りたかったのはいつでも自分自身で、誰にでも優しくて誰からも愛される有明光だ。
自分ばかり守りたいと思っている俺が、本当に大切な物を守れる訳もなく

兄貴が、さくらが、羨ましかった。
欲しい物を欲しいと素直に言えなくなってしまった自分。

すごい女だな、と思ったのを覚えている。
兄貴が立ち上げたONEというあの頃はまだ小さかったキャバクラ。小さくて、けれどあんなに楽しかった日々があったのだろうかって思えば、あの時間さえまるで夢だったんじゃないかと思う日がある。

さくらは未経験でキャバクラに入って来た女の子で、見る見るうちにナンバー1になって、うちの看板嬢になっていった。
けれど不思議な女だった。キャバクラという世界。最初はいい子だったり、ごくごく普通の女の子だったけど、地位やお金に溺れていく人が落ちやすい、最もアンダーグラウンドな世界だと思っている。
人は変わる。
良い意味でも、悪い意味でも。変わる事は決して悪い事ばかりじゃない。
しかしキャバクラで働く大半の女は売れれば例外なく変わっていった。
別に女に幻想があったわけじゃないけど、売れてる女の子を良い気分で仕事をさせるのが俺の仕事だったりして
最も人が溺れやすい場所で、地に足をつけて生きている方が珍しかったりする。
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