【完】さつきあめ〜2nd〜
「ママからお話は聞いてますし、勿論さくらさんの事はよく知ってますよ。
写真で見るより実物で見る方がずっと綺麗ですね」
「いや、そんな…」
歯が浮きそうになるようなお世辞を、お世辞と感じさせないほどさらりと言ってのけてしまう目の前にいる男は、優し気な深い黒色の瞳が印象的な人だった。
長身で、引き締まった体をしていて無駄な肉なんてない。モデルように今まで出会ってきた人ともまた違うオーラのあるような人だった。
見え見えのお世辞に嫌な気がしないのは、彼の持つ独特の声色のせいだったのかもしれない。
それほど落ち着いていて、柔らかい、居心地の良い声で話す人だと思った。
「双葉の店長をしています、沢村優也といいます。
さくらさん、これから一緒に頑張っていきましょうね」
丁寧な口調に、わたしをさくら’さん’とさん付けするような店長に出会ったのは初めてだった。
夜の人間ぽくなくて、お昼の仕事の営業と言ってもおかしくないほど、しっかりとしていて印象の良い人だった。
短髪の黒髪に、笑うと白い歯がやけに清潔感がある。
「こちらこそよろしくお願いします」
思わずこちらの背筋が伸びてしまうくらい。
「沢村さんは、有明に声を掛けられて七色に入ってきた人なの。
夜の仕事をする前は営業をしてた人なの」
「どうりで……」
夜の仕事をしている人間って、どこか浮世離れしている人が多い。
けれど沢村からはあまりその匂いが感じられなかった。どちらかというと、昼の仕事をしている人の匂いがした。