【完】さつきあめ〜2nd〜
「ゆりか君かは選べない」

何となくそう言われるとは分かっていた。
そういう人だって分かっていた。
それに彼がゆりを選ぶというのなら、それはそれで仕方がない事だと思っていた。

ONEへの移籍…というか半期だけ働く事が決まって、その話は一気に周りに広がって行った。
一度だけ小笠原と食事を行った時に言われた事。彼も全て知っていた。その上で、わたしだけを応援する事は出来ないと言われた。
彼らしい答えだと思った。

わたしは新人の時から指名を続けてくれる小笠原を特別に思っていたし
お客さんは全て平等とは言え、この人は綾乃と争っていた時のわたしのピンチを助けてくれた人でもあり、恩人でもあった。
だからこそ、こんな勝負には巻き込みたくなかったし、わたしはわたしの力でゆりに勝たないといけないのだと思った。

ONEの入っているビル。
そして初めて足を踏み入れるONEのビル。

何年か前に改装したというONEはそのビルの一角を借り切っているような大きなお店で
そこだけ真っ白いビル外装の造りになっていて、自動ドアが開くと大理石で出来た店内と、お店で続く真っ白の階段が螺旋状に円を描いていた。
話には聞いていたが、色々とスケールが違いすぎる。

階段を上がるとキャッシャーがあって、その横に真っ白い壁の中に銀色の十字架が刻み込まれていた。
1階は洋風の造りになっていて、2階は和風の店内。
吹き抜けになっている広い天井。VIPルームも2つ完備してあり、何より席数が他の店舗とはけた違いに多い。最大収容人数が100人らしい。
そこまで大きな店舗はここらでは珍しく、キャストの働き方もさまざまだ。
わたしたちのようなレギュラーキャストもいれば、団体の予約が入った時だけ2時間ほど出勤するヘルプの嬢も多数在籍しているらしい。

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