【完】さつきあめ〜2nd〜

振り向いた愛とるなは笑っていて「ちょー元気っすよ、赤ちゃんも」と微笑んだ。
それを聞いて、心から良かったと思えた自分を少しだけ好きになれた気がした。

その後同伴が入っていたわたしは明美にヘアセットをしてもらい、お任せでと言ったけれど、明美は思っている以上にわたしに似合う髪型にしてくれた。

「さくらは変に派手にするより元々顔が整ってるからシンプルな髪型が似合うわね。
フェイスラインが綺麗だから、アップにしておでこを見せる方がいいね」

「明美さんありがとうございます!すっごく上手!
さすが!」

明美にお礼を言って、更衣室にいる愛とるなと少し話をして
裏口から同伴へ向かおうとした時だった。
扉を開けて、階段を駆け降りる。
その時、ふんわりと花の香りがする女性とすれ違った。

コツコツ、とヒールを鳴らす音が止まる。
真っ白なファーのコートを着て、ショートボブの栗色のさらさらな髪が振り返った時に唇に少しかかって
その薄い唇の口角を少しだけ上げて、大きな瞳を線のように細めて優し気に微笑んだ。

抱きしめてしまいたくなるほど華奢で、小さな女性だった。


「そんなに急いで階段降りたら、危ないよ」

「あの………」

ONEにはゆりを初め、驚く程綺麗なキャストが沢山いるのは知っていた。
けれど一目見た時から、わたしは彼女が誰だかすぐに気づいた。

’雪菜はお前と気が合うんじゃねぇかな’

いつか朝日が言っていた言葉を思い出す。

彼女は鼻歌を歌いながら、ONEへ続くドアを開いた。

ゆりとは違う、全く正反対の雰囲気を持ったONEのナンバー2。
この戦いにおいて、彼女にあんなにも助けられるなんてこの時は思いもしなかった。

< 510 / 826 >

この作品をシェア

pagetop