【完】さつきあめ〜2nd〜
けれど誰にでも優しく振舞い、周りの気持ちを1番に考えて、自分の気持ちを押さえつけて生きる事。
それは容易く出来る事なんかじゃない。
結局はその優しさが嘘か本当かなんて大した問題ではないのだと思う。
その日その場所で救われた人間かいたのだとすれば、受け取った側にすればその優しさは本物なのだから。
俺は逆に、光が周りに気づかいすぎてそんな生き方しか出来なくなっていた事を心から申し訳なく思った。

「ふぅー…」

大きな屋敷の、俺が数年生きてきたこの家はえらく居心地が悪い。
それでもここに来るまでの生活に比べれば、マシだったんだと思うけど。
俺に、綾と光がいてくれて良かった。どう考えても手本になるような兄ではなかったし、それどころか、きっといつからか俺は光に何でも譲ってもらうのが当たり前だと思っていたんだな。

「朝日、だいじょうぶ?」

綾が目の前に座って、心配そうに俺の顔色を伺う。
綾も俺たちがもうちょっとしっかりしていたら、もっと明るい女の子として普通に生きていたかもしれない。

「おお、別に俺は平気」

「光は帰ったよ…。
びっくりしちゃった…
朝日は本当に平気なの?」

「平気っつーか何て言うか、光にずっとあんな想いさせていた事に自分の情けなさが身にしみるよ…」

ぎゅっと拳を握りしめて、綾は唇を強く噛みしめた。

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