【完】さつきあめ〜2nd〜

そう言い残し、美月はお店から出ていく。
がらんとした店内。
ひとり取り残されて、寂しさがより一層募る。

26歳の誕生日の夜。たったひとり…。誰からも誘いは無し。
たったひとりで、誕生日の夜を過ごすのは何年ぶりだろう。
誕生日メールは何件か入っている。でも誰も誘ってくれない。
はぁーっと1人になった店内で、戸締りを済ませて文月の鍵を閉めると、ピロンと携帯にメールが一件入ってくる。

「誕生日おめでとう。
あなたの事だから心配はしていないけれど、たまには顔を見せて下さい。
お店頑張って下さい」

素っ気ないメールだけど、心に灯りがともるように一気に明るくなった。

文月を出て、真っ赤な傘を広げる。
空からは、雨粒。
さっきよりずっと強くなっていく。
でもその一定に刻む音色を聞いていると、いつかを思い出して優しい気持ちになる。



’どぉしたの?’

’何でもないよ’


心の中で呟く。
いつかの誰かの優しさが、雨と一緒に感情の中に一気に入ってきて
柔らかい微笑みの中で、いつだってひとりではなかったと何度も思い出される。


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