私たちの六年目
「じゃあね、秀哉」


そう言うと私は、私の腕を掴む秀哉の手を自分からそっと離した。


ふと自分の腕を見ると、秀哉に強く握られていた場所が真っ赤になっていた。


「ごめんね」


良い友達でいられなくて。


こんなふうに、去ることになってしまって。


「本当に、本気で好きだったよ」


秀哉の良いところも悪いところも。


たまにボサボサで決まらない髪も。


全部が大好きだった……。


好きって言いたくて言いたくて。


でも、言えなくて。


やっと伝えることが出来たのに。


これが最後になるなんて……。


今にも泣きそうな顔で、私を見つめる秀哉。


出来れば、最後に見る顔は。


秀哉の優しい笑顔が良かったけど。


「バイバイ。元気でね」


そう言うと私は、くるりと秀哉に背中を向けた。


その途端、涙が止め処なく溢れて来たけど。


拭わないで、そのまま歩いた。


秀哉はと言うと、もう私を追って来たりはしなかった。


一歩一歩足を進めるたび。


二人が結婚するという現実が、私の心を重く支配していた。


それがあまりに苦しくて。


いっそこのまま。


秀哉との思い出ごと消えてしまいたかった……。
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