私たちの六年目
この三日間。


私は仕事をしながらも、無意識に秀哉の姿を探していた。


あの時、つい仕事の癖でイベントに来てねって言ってしまって。


そのせいで、もしかして職場の友達に誘われて、来るかもしれないと思ったから……。


バカみたい。


そんな心配、するだけ無駄だったのに。


あーほんと、何やってんだろ……。


情けなくて、ため息をついたその時。


「江坂さーん」


誰かに名前を呼ばれた。


振り返ると、イベント参加者の花屋さんが、私に手招きをしていた。


「どうしたんですか?」


私はそう言いながら、彼がいるブースへと向かった。


「江坂さん、この花いらないかなって思って」


そう言って彼が指を差すのは、イベントを華やかに演出してくれていた花達。


「これね、もう処分するしかないんだよね。

まだまだ綺麗なのに、もったいないでしょ?

だから江坂さん、持って帰らない?」


「えー、いいんですか?」


「うん、もちろん。

好きなだけ持って帰っていいから。

ここにあるビニールと輪ゴムを使って、花束にするといいよ」


「わぁ、嬉しいです。

じゃあ、いただいて帰りますね」


「僕、これから車を取りに行って来るんで、ちょっと遅くなるんだけど。

ここ何時まで大丈夫?」


「えっと、今日中に撤収してもらえれば大丈夫なので」


「そうか。じゃあまだ時間は十分あるな。

でも、江坂さんとはここでお別れかな?

三日間、お世話になりました」


「いえ、こちらこそ」


お互いにお礼を言って別れた後、私はテントの中に足を踏み入れた。
< 179 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop