私たちの六年目
「秀哉、最低だね」


しばらく黙って俺を睨んでいた梨華が、ようやく口を開いた。


さっきまで、あんなに穏やかであたたかな空気に包まれていたのに。


この部屋はまるで正反対。


冷たくてピリピリとしていて、少しの時間もここにいたくないと思うほどに。


「LINEは無視するし、電話にも出ないし。

大体何なの?

私とキスした後、大事な用があるって急に部屋を飛び出すなんて。

確かめたいって言ってたけど、一体何を確かめに行ったの?

誰と会ってたの?

会社の友達の部屋に泊まるなんて、どうせ嘘なんでしょう?」


立ち上がって、早口でまくしたてる梨華。


確かに、キスの後で部屋を飛び出したり。


LINEの返信もろくにしなかったら、怒るのは当然だ。


最低だと罵られても仕方がない。


「ごめん……。あんなふうに突然飛び出して……」


だけど、後悔はしていない。


連絡の取れない菜穂と会うには、あの時間にあの場所に行くしかなかったから。


美しい花々に囲まれ、真っ白い花束を抱えていた菜穂は、本当に綺麗で……。


まるで聖母か天使のように見えた。


梨華とのことで、気持ちはどん底だったのに。


菜穂の姿を見ただけで、なんだか救われた気がしたんだ……。
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