私たちの六年目
「言えないよ……」


私は結局、臆病で卑怯者なんだ。


現状を変えるより、ラクな方を選ぶことしか出来ないんだから。


「菜穂さんが言えないなら、僕が言いましょうか?」


思わぬ崎田君の言葉に、首を横に大きく振った。


「やめて! そんなの絶対ダメだから!」


「いいえ、もう決着をつけるべきです」


ひどい。


どうしてそんな勝手なことをしようとするの?


別にこのままでもいいじゃない。


これからも今まで通り、秀哉には何も期待しないし、望みもしない。


ただ友達として、そばにいられたらそれでいい。


このまま歳を取ったとしても、絶対後悔なんかしないから。


「お願い、やめて。

じゃないと、崎田君のことを嫌いになる……!」


「菜穂さん!」


にらみ合う私と崎田君。


しばらくそうしていたけれど、突然崎田君が私の腕をガシッと掴んで自分の方へと引っ張った。


その反動でコンビニの袋が、バサッと床に落ちて。


「あ……」と思った次の瞬間。


崎田君の顔が近づいてきて。


彼の唇が、


私の唇に重なった。
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