私たちの六年目
「秀哉、どうしたの?」


カフェで待ち合わせのはずなのに、どうして会社の前にいるの?


「俺19時に会社を出たんだけど、その足ですぐこっちに移動したんだ。

カフェで待つより、早く会えると思って」


にっこり笑う秀哉にドキッとした。


それって、私に早く会いたかったってこと?


どうしよう。


嬉し過ぎる。


ぎゅーって、抱きつきたくてたまらない。


まぁそんなこと出来ないし、絶対にしないけど。


「お腹空いてるだろう? どこ行く?」


「そうだね。あんまり時間もないし、タクシーつかまえて大通りまで出ようか。そこまで行けば気軽に入れる飲食店が沢山あるし」


「わかった。そうしよう」


あれこれ迷ってる時間が、それこそもったいないもんね。


「ちょっと待ってね。タクシー呼ぶから」


そう言って、カバンからスマホを取り出したその時。


「こんばんは」


背後から、今一番聞きたくない声がした。


「あ、崎田君。久しぶり」


「どうも、秀哉さん。お久しぶりですね」


そうか。


崎田君って、まだ会社に残っていたんだっけ。


秀哉と一緒にいるところを見られるなんて。


最悪だ……。
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