私たちの六年目
「菜穂……」


せつなそうに私を呼ぶ秀哉。


あまりに苦しそうだから、思わず秀哉のサイドの髪に触れた。


そうしたら秀哉が、目をきゅっと細めた。


「あのさ……」


今まで、こんなに近くで秀哉の顔を見たことがあったかな。


こんなふうに、秀哉の髪に触れたことなんてあったかな。


「ごめん、俺……。

多分、今からすげー勝手なこと言うと思うけど……」


「な、何……?」


さっきからずっと私から視線を逸らさない秀哉。


しばらく見つめ合っていると、彼の髪に触れている私の手に秀哉がそっと自分の手を重ねて。


その感触に、トクンと心臓が鳴った。


「嫌だ……」


「え……?」


「嫌なんだ……」


「な、何が……?」


ゴクンと息を飲むと、秀哉が震えるような声で言った。


「俺……。


崎田君に……。


菜穂を渡したくない……」


思わず目を大きく見開いた。


そのまま、二人とも微動だに動けなかった。


少し潤んだ秀哉の瞳。


私の手に重ねた秀哉の手が、私の手をぎゅっと握った次の瞬間。


まるで磁石で引き寄せられるように、唇同士が近づいて。


二人でほぼ同時に瞼を閉じると。


お互いの唇を、静かに重ね合わせた。
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