私たちの六年目
「俺のそういう複雑な気持ちを、菜穂はわかってくれてるのか。

いつもと変わらない態度でいてくれただろう?

きっと、俺と気まずくならないように気を遣ってくれてんだなって。

だから、菜穂の方から何か言って来るまでは、俺からこの話をするのはやめておこうって思ったんだ」


私が何も言わなかったのは、気を遣ったからじゃない。


秀哉の方から何か言ってくれるのを待っていただけ。


お互いに相手の方から何か言うのを待っていたんじゃ、この話にならないはずだよね……。


「今は?」


「ん?」


「今のキスも、した後で複雑?」


帰ろうとする私を引き止めて。


崎田君に渡したくないって言ってキスをしておいて。


説明がつかないって終わりにするのかな……。


「菜穂は?」


「え……?」


「お前はどうなんだよ。

俺とキスして嫌だった?」


まさか聞き返されると思わなくて、ドキッとした。


「い、嫌って言うか……」


「どうして俺のキスに応じたの?」


「ちょ……っ」


ちょっと待ってよ。


そんなの答えは一つしかないのに。


今ここで言えって言うの?


梨華のことが好きだってわかっているのに?


「わ、わかんないよ。

応じたのは……。

い、嫌じゃなかったから……じゃない?」
< 72 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop