私たちの六年目
生ぬるいビル風が吹く中、私は駅までの道を必死に走っていた。


秀哉と梨華が結婚する。


ずっとずっと大好きだった秀哉が。


いやだ……。


そんなの、絶対にいや!


目の前が涙で滲んで、視界が遮られたその時。


「待って、菜穂!」


誰かにガシッと腕を掴まれて、走る足が強制的に止められた。


ビックリして振り返ると、そこには。


息を切らした秀哉が、私の腕をしっかりと握りしめていた。


「菜穂……。泣いてるのか?」


目を見開く秀哉。


「どうして、泣いてる……?」


秀哉が驚くのも無理はない。


だって。


私が秀哉の前で泣いたことなんて、一度もないんだから。


「菜穂、みんなのところへ戻ろう。

みんなすげー心配してる。

だから、俺と行こう」


秀哉の言葉に、首を横に振った。


「どうしたんだよ。

今日の菜穂、いつもと全然違う。

こんなふうに泣いたり。

突然帰るなんて、菜穂らしくない」


私らしくない?


「それって、何……?」


「え……?」


「私らしいって、どういうもの……?」


そう尋ねると、秀哉が目をパチパチとさせた。
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