ビターのちスイート
「杏奈さんとあの彼氏が別れるかどうかはさておき、ふたりの関係ってちょっと変化してますよね?」
「……どういうこと?」
「だって最近杏奈さん変わったもん。前までは休憩中によくスマホいじってましたけど、今年に入ってからほとんどスマホに触ってる姿見てないし」
本山の指摘に思わず杏奈は無言になる。
杏奈の無言を肯定と受け取ったのか、本山は満足そうに微笑んだ。
「俺、結構本気ですよ、杏奈さんのこと。……旅行中、ちょっとでも俺のこと考えてくれるとうれしいな」
そう言うと、杏奈の手から本山の手が離れていく。
「じゃ、また後で。今日一日頑張りましょうね、杏奈さん」
本山はいつものようにニッコリ笑って、厨房の方へと消えていった。
杏奈はそんな本山の後ろ姿を、ただ茫然と見届けることしかできなかった。
しかし、今日はバレンタインデー当日。
ほとんどの人が商品を購入しには来ているものの、当日に購入しに来てくれるお客様も少なくはない。
有り難いことに杏奈にとって、幸弘や本山のことを考えている時間はないほど忙しく、日中はふたりのことを思いだすことはなく仕事に励んでいた。
そんな杏奈の元に、高校時代からの同級生の片山陸斗(かたやま りくと)が現れたのは、夕方の五時を回った頃である。
モデルの両親を持つ陸斗は、高校生の頃からかっこよくとても人気があった。