ビターのちスイート
十二年前、杏奈と共に『ショコラ・ショコラ』を訪れた莉子が、同じようにこのチョコレートを購入しようとしていたことを思いだしながら、杏奈はあの時と同じ言葉を彼女たちにかけることになった。
「ごめんなさい。この商品は予約限定商品で、もう予約は終了しているんです」
「え……、そうなんですか……」
「大丈夫だよ。別のチョコでもきっと受け取ってくれるよ。気持ちは伝わるよ!」
杏奈の言葉に、スマートフォンを握りしめた女の子が大きく肩を落として落胆する。
今にも泣き出しそうな彼女を、一緒に来ていた友人であろう女の子が必死でなぐさめている。
杏奈はそんなふたりに優しく声を掛けた。
「ちょっと待っててもらえますか?」
ふたりがコクリ、とうなずいたのを見ると、杏奈はバックヤードへと引っ込み、予約商品が並ぶ棚から赤い箱をひとつ取り出した。
そして、それを待ってくれていたふたりの目の前に差し出す。
「これ、私の知り合いが予約していたものなんですけど、実はさっき、受け取りに行くのが難しいと言われて私が買うようにしていたんです。もしよければ、お買い上げいただけますか?」
本当は、杏奈が購入する予定だった商品。幸弘へ渡してから十二年、欠かさず送り続けてきたその商品を、杏奈は彼女へ差し出した。
すると、泣きそうになっていた女の子の頬に赤みが差し、ひまわりのような笑顔が広がった。
「いいんですか?」
「もちろん。あなたの恋が叶うようにスタッフ一同、お祈りしています」