ビターのちスイート
しばらく無言が続いた後、考えのまとまったような陸斗の声が聞こえてきた。
『まあ、ユキがそう言うなら大丈夫だろうけど。だけど、ちゃんと高梨と会ってやれよ。少し元気がないように見えたし』
「ああ、わかったよ。」
陸斗との会話を終え、幸弘は電話帳を起動させ、杏奈の電話番号を表示させた。
しかし、コール音は鳴らず、幸弘の耳に届いたのは、杏奈のスマートフォンの電源が入っていないというアナウンス。
「充電でも切れてんのかな」
陸斗の助言もそこまで真剣に受け取っていなかった幸弘は、それ以上杏奈の電話を鳴らすことはなく、家路に着いた。
結局幸弘は、それ以上杏奈に連絡を取ることもなく、疲れた体を休めるためにベッドへともぐりこんだのだった。
そして翌朝、杏奈からの返事がなかったことが、少しは気になっていたのだろう。
幸弘が目を覚ましたとき、部屋の時計はまだ朝の六時だった。
自分のスマートフォンを手に取り、画面を見てみたが、杏奈からの着信も、幸弘からのメッセージに既読がつくこともなく、幸弘は首を傾げた。
一晩、杏奈が何もしてきていないというのはさすがにおかしいと感じた幸弘は、スマートフォンのリダイヤル機能で杏奈の電話番号を呼び出す。
しかし、幸弘の耳に入るのは、相変わらず電源が切れていることを告げるメッセージのみ。
『ユキ、お前さあ、最近高梨と何かなかったか?』
何も気にしていなかった、昨日の陸斗の言葉が頭の中によみがえる。