ビターのちスイート

嫌な予感が広がる心を落ち着かせながら、幸弘は持ってきた杏奈の部屋の合鍵を使い、鍵のロックを開錠した。

静かに玄関の扉を開け、突き当たりにある扉を開く。

「杏奈? いないのか?」

シーンと静まり返った部屋に、幸弘の声だけ広がっていく。

部屋の電気をつけ、明るくなった部屋の中で幸弘が見たものは、幸弘の想像を超えていた。

いつも杏奈が寝ているはずのベッドは無人で、部屋の端っこには、段ボール箱がふたつ積み上げられていた。

幸弘は恐る恐る近づき、段ボール箱に手を掛ける。

段ボール箱に入っていたのは、幸弘が杏奈の部屋に置いていた私物たち。

「……どういうことだよ」

幸弘は呆然となり、段ボール箱から離れて、杏奈のベッドへ腰を下ろす。

連絡が取れなくなった杏奈。そして、幸弘の私物を整理している杏奈。

ふとテーブルに目をやると、そこには運送会社の伝票が置いてある。

宛先には幸弘の名前、そして伝票は二枚。

「これ、どう考えてもあの段ボールに貼る伝票だよな」

ハアッと大きなため息をつき、幸弘は両手で顔を覆う。
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