ビターのちスイート
間違いなく、杏奈は自分から離れようとしている。
ふとテレビ台の横に目を向けると、写真立てが裏を向けて伏せられていた。
幸弘はゆっくりと立ち上がり、その写真立てに手を伸ばす。
そこに写っているのは笑顔の杏奈と幸弘。大学の卒業旅行で撮った写真だった。
『これ、すっごいキレイに撮れてる』そう言って笑った杏奈の笑顔もとても可愛くて、ずっと一緒にいたいと強く願ったことを幸弘は思い出す。
一体いつから、杏奈は自分から離れようと考えていたのだろう。
忙しさにかまけて、杏奈のことをおろそかにしていた自分に対し、幸弘は後悔の気持ちしか出てこない。
とにかく、今は杏奈と会って話をしなければ。そう思った幸弘は、手元にあったスマートフォンを取り出し、杏奈の電話番号を表示させる。
『杏奈、今どこにいる? 会って話したいんだ。頼むから連絡くれ』
やはり電源は入っておらず、幸弘は祈るような気持ちでメッセージを打ち込む。
メッセージを打ち終わった直後、幸弘のスマートフォンが陸斗からの着信を告げた。
「陸斗。杏奈がいないんだ」
『えっ? どういうことだよ』
開口一番重々しい言葉を発する幸弘に、驚きの声を上げる陸斗。
「昨日、杏奈から連絡がなくて。今杏奈の家にいるんだけど、家にいないんだ」