恋の宝石ずっと輝かせて2
 その時、呼び鈴がなりユキが立ち上がった。

 仁もその後をついていくと、藍色の作務衣を着た傷だらけの年老いた男がキイトと並んで立っていた。

「なんかの役に立つかと思って、長老のセキ爺を連れてきたんだけど、迷惑じゃないか?」

 キイトが遠慮がちに紹介した。

「どうぞおあがり下さい」

 ユキが喜んで招き入れると、二人は言われるままに家に上がる。

「ほぉ、立派なお宅じゃのう」

 老成された貫禄を持つセキ爺は、礼儀正しく振舞う。

「ちょうどよかった。クッキー焼いたの。キイトが来てくれて嬉しい」

 それはユキの意識だった。

 トイラはいつの間に引っ込んだのだろうと、仁はユキを見つめていた。

 訪問者を家に上げ、居間のソファーに案内した後、ユキはキイトの前に入れ物に入った沢山のクッキーを差し出した。

「私のために作ってくれたの?」

 キイトの問いにユキがはにかんで頷く。

 キイトはユキの好意に笑顔を見せ、セキ爺にとても美味しいお菓子だと説明した。

 ソファに座り、二人は早速ほお張っていた。

「ほんとじゃ、この甘みが美味しいのう」

「お口に合って嬉しいです。今お茶お入れしますね」

 ユキが台所に戻ると、今度は仁が相手をし出した。

「セキ爺……さん?」

「セキ爺でかまわんよ。本名は長いのでそう呼ばれている。君は仁だね。キイトから色々と聞かせてもらった。ニシナ様を探すのを手伝ってくれる、事情を理解した人間だとか」

 仁はなんだか緊張した。緩和するためにヘラヘラととりあえず笑顔で応対する。

「それじゃセキ爺、その傷なんですけど、一体どうされたんですか?」

 セキ爺のあちこちに傷があった。

「これか、これはニシナ様が連れ去られた後、襲われたんじゃ。ワシはニシナ様に一番近くでお仕えする年老いた猪でのう、年が年なだけにお守りできなくて」

「誰に襲われたんですか?」

「それがはっきりと分かっていたらいいんだが、あっと言う間のできごとでな、不意をつかれて後ろから何者かが飛び掛ってきて、あちこちを引っかかれ噛まれたんじゃ。中は薄暗いし、足場は悪いし、咄嗟のことでバランスを崩して倒れこんでしまった。猪になって応戦しようとしたんじゃが、すばしこいやつで後ろから襲われると老人には勝ち目はなかった」

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