恋かもしれない
「待ってますと言ったのは俺の方でしたよね。遅くなりました」

「い、いえっ、全然、ですっ。あの、今、来たところで……はい……」

わたわたとスマホを鞄に仕舞って俯くと、松崎さんの手が目に入る。

血管が浮き出て骨ばった男っぽい手だ。

でも、何も持っていない。本は?

「じゃ、暑いですし、行きましょうか」

「へ?」

「車、向こうの駐車場に停めてあるんです。こっちです」

車? 行きましょう??

呆然とする私を置いて、松崎さんは駅の方を指差して、スタスタ歩いて行ってしまう。

「え? あ、あの」

本は?の問いかけは、喉の奥に詰まる。

車の中に置いてあるのだろうか。まさか持ち運べないほどたくさんあるとか? 

段ボール一箱分あったりして、そんなの持って帰れるのだろうか。

まごまごしていると、五歩ほど先にいる松崎さんが私の元に戻ってきた。

「念のためもう一度聞きます。今日は、お時間ありますか?」

真っ直ぐに見つめてくる表情も声も、とても真剣な感じだ。

私がぼやぼやしているから、怒っているのかもしれない。やだ、どうしよう。

「はい、あり、ます」

「良かった。それでは行きましょう」

優しく笑んで、今度は私が歩き出すのを待っている。

おずおずと進むと、私の歩調に合わせてくれる。
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