ユルトと精霊の湖
「……生きているわ」
「早く生まれ過ぎたのかもしれない、とも言っていたの。そういう子は……お乳を飲まず、すぐ死んでしまうのですって」
気の毒そうに言う花精に、目を見開き、湖精は、違う、とつぶやく。
「でも……お乳を飲まなければ死ぬって、動物達は言っているわ……」
「だって……生きているのよ」
珍しく強い口調で花精に反論すると、湖精は赤子を受け取り、腕に抱いた。
小さな体の中で、命の流れが脈打つのを感じる。
「ねえ、見て……この子の頬、赤みがさしてきたわ。さっき見つけた時にはもっと青白い顔色をしていたのに」
ふっくらとした頬に触れると、哺乳類特有の毛のない肌の温度を感じた。
「こんなにあたたかいのに……死んでなんかいない」
湖精は愛しげに赤子を見つめ、ぎゅっと握りしめられた小さな手の指に触れた。
先端に薄く透き通る鱗のような爪のついた小さな指が、ぴくん、とはじかれたように動く。
「……今、私の指を握ろうとしたわ!」
皆に見せようと赤子の体を傾けると、芽吹いたばかりの若草のような髪がふんわりと腕に触れた。
見下ろせば、瞼を閉じている赤子は、湖精に全てを預け、安心して眠っているように見える。
それを目にした湖精の胸に、苦しいようなせつなさが広がった。