ユルトと精霊の湖
「……どこか、ケガをしているのかもしれない」
湖精はつぶやき、腕の中の赤子をしっかりと抱き直した。
「それならば……」
言うより早く、湖精は赤子を抱いたまま、魚よりも早く川を遡り始めた。
赤子が捨てられた滝を昇り、枝分かれした川のひとつを山に向かって進む。
どこへ行くのかと追いかけて来る動物達も追いつけない程の速さで、あっという間に湖精がやってきたのは山肌にぽっかりと口を開けた洞窟の前。
勢いよく流れこむ水の色は白く、湖とは全く違う匂いがする。
そして何より、濃厚な他の精霊の気配。
熱い水に息苦しさを覚えながら、湖精はこの地に住まう者達に呼びかけた。
「地の精よ!火の精よ!」
すっかり冷えてしまった赤子を掲げ、できるだけ冷たい自分の体から離して呼びかける。
「私は下流の湖に住まう湖精です!あなた方の力を貸していただきたく、まいりました!」
力の強い他の水精ならいざ知らず、自分のような小さな存在に耳を傾けてくれるかはわからない。
けれど、この赤子のため。
湖精はあらん限りの力で叫んだ。