ユルトと精霊の湖
「あらあら、あなた」
こちらは声だけでなく、優雅な衣の裾を引き、豊満な体を揺らすようにしながら、ゆっくりと湖精のいる川に近づいて来る。
「お客様のお相手をして、と言ったのに、わたくしが来る前に追い返そうとするなんて」
地の精霊が足を止めると、ようやく、山のように大きな姿を見せる火の精霊。
「でもなぁ、おまえ……こいつは水精だぞ」
「まあ、わたくしのかわいい子達をいつも潤してくれているのが誰か、忘れてしまったの?」
口を閉ざす火の精霊に、呆れたように肩をすくめる地の精霊。
「水精は、わたくしのパートナーであり、なくてはならない存在なのだと何度言ったらわかってくださるの?」
「それは……わかってはいるんだが」
「やきもち焼きの小さい男なんて、嫌いよ」
しゅんとしてしまった火の精霊をそのままに、湖精に近寄った地の精霊は、ぽってりとした唇をほころばせて笑った。
「ごめんなさいね。あの人ったら、私が水精とばかり会うものだから、妬いているのよ」