ユルトと精霊の湖

「あらあら、あなた」

こちらは声だけでなく、優雅な衣の裾を引き、豊満な体を揺らすようにしながら、ゆっくりと湖精のいる川に近づいて来る。

「お客様のお相手をして、と言ったのに、わたくしが来る前に追い返そうとするなんて」

地の精霊が足を止めると、ようやく、山のように大きな姿を見せる火の精霊。

「でもなぁ、おまえ……こいつは水精だぞ」
「まあ、わたくしのかわいい子達をいつも潤してくれているのが誰か、忘れてしまったの?」

口を閉ざす火の精霊に、呆れたように肩をすくめる地の精霊。

「水精は、わたくしのパートナーであり、なくてはならない存在なのだと何度言ったらわかってくださるの?」
「それは……わかってはいるんだが」
「やきもち焼きの小さい男なんて、嫌いよ」

しゅんとしてしまった火の精霊をそのままに、湖精に近寄った地の精霊は、ぽってりとした唇をほころばせて笑った。

「ごめんなさいね。あの人ったら、私が水精とばかり会うものだから、妬いているのよ」



< 23 / 86 >

この作品をシェア

pagetop