ユルトと精霊の湖

「地の精よ!火の精よ!どうか…どうか、お応えください!!」

「なーんじゃ、騒がしい」

湖精の必死の呼びかけに答えたのは、重々しい割れ鐘のような声。

轟くような重低音と共に、身を焼くような熱が吹き付けた。

湖精は、掲げていた赤子を守るように抱き直し、頭を垂れる。

なにしろ、相手はこの火山に宿る火の精霊。

機嫌を損ねたら、湖精など、一瞬で消し飛ぶかもしれない相手なのだから。

「急に参り、騒ぎだてましたこと、真に申し訳なく思っております……しかし、緊急時なればこそ……どうか、ご容赦願います」
「おぬしの用事なぞ、どうでもええわい」

火の精霊は尊大に言い放つと、湖精を見下ろし、ふん、と鼻を鳴らした。

「儂ぁ、水の精霊は好かん」

相反する性質の相手ならば、仕方のないこと。

けれど、湖精はここで仕方ない、と言って引くわけにはいかなかった。

腕の中の赤子をぎゅっと抱き直し、追いすがる。

「お待ちください!どうか!」

火山の中心へ戻ろうとする火の精霊。

そこへ立ちふさがったのは、この火山のもう1人の主。


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