恋と眼鏡
部屋の中では祐典さまがソファーに座って本を読んでいた。
目があってにっこりと目を細めて笑う。

「お座りなさい」

「……はい」

ぽんぽん、祐典さまの手が叩く、ソファーにおそるおそる座る。
毎度のこととはいえ、いまだに隣に座るのは勇気がいる。

「ああ、やはり荒れている」

祐典さまが私の手を掴み、どきんと心臓が跳ねた。

「水仕事をしますから、仕方ないですね」

テーブルの上の置かれた、藍色の陶器の容器から軟膏を人差し指に掬い、祐典さまはそっと、私の手の上に載せた。

「よく、塗り込んでおかないと」

するすると祐典さまの大きな手が私の手の上を滑る。
舶来品だというそれは、祐典さまと同じでよい匂いがした。

「加代の小さな手はすぐに、紅葉みたいに真っ赤になってしまいますからね」
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