俺の新妻~御曹司の煽られる独占欲~


鈴花の体を引き寄せようとしたとき、ゴホンとわざとらしい咳払いが聞こえてきた。

「すみませんが、そういうやりとりは自宅に帰ってからにしていただけませんか」

能面のような顔をした穂積にそう言われ、鈴花は真っ赤な顔を手で覆う。
俺はそんな彼女の手を引き笑いながらうなずき、車に乗り込んだ。

暗闇の中、窓の外で遠ざかる旅館をじっと眺める鈴花に「もっとゆっくりしていたかったか?」と問うと、鈴花は柔らかく笑って首を横に振った。

「なんだか不思議だなぁって思ってました」
「不思議?」
「少し前まではここが私の家だったのに、もうすっかり和樹さんと暮らすあの部屋が私の帰る場所になったんだなぁって」

その言葉に、胸が温かくなる。

「じゃあ帰ろうか。俺たちの家に」
「はい」

視線を合わせると、それだけで自然に笑みが漏れた。





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