昨日、彼を振りました。
……キ、キスなんてやだ。

怖くて目を閉じた瞬間、ちゅっ、頬に柔らかい感触。
おそるおそる目を開く。
視線のあった荒木さんが見たことのない意地悪な顔で、にやりと右頬だけを歪ませて笑った。

「いまはこれで勘弁しといてやる」

熱を持った左頬を両手で押さえると、ずるずると背中が壁を滑ってそのまま座り込んだ。
気がゆるんだせいか、涙がぽろぽろ出てくる。

「泣くなよ!?」

「だ、だってー」

はぁーっ、大きなため息をつき、荒木さんは私の前にしゃがみ込んで、まるで子供をあやすかのようにわしゃわしゃとあたまを撫でた。

「悪かった。
そうだ、泣かしたお詫びじゃないけど、今日はメシ、連れていってやる」

……その言葉に。
簡単に誤魔化されてしまう私がいる。

「……イタリアン」
< 14 / 30 >

この作品をシェア

pagetop