昨日、彼を振りました。
荒木さんがトイレに入っているあいだに、お茶を淹れる準備をした。
今日は迷惑かけたし、お礼、かな。
やかんを火にかけ、お湯が沸くのを待つ。

「ありがと、三峰。
おかげで助かった」

「いえ、別にいいです……」

気がついたら。
流しに向かっている私のすぐ後ろに、荒木さんが立っていた。
腕が伸びてきてそっと私を抱きしめる。

「……なあ、三峰。
おまえほんとは俺のこと、好き、だろ」

耳に進入してきた熱を持つ低い声は、あたまの中にじんわりと染み込んでいく。
否定したくて首を振りたくても、熱くなったあたまは麻痺したみたいに反応してくれない。

「どうなんだ?」

右手で顎を掴むと、荒木さんは自分の方に私を向かせた。
合ってしまった視線。
レンズの向こうは見てはいけない世界。
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