バンパイア・ トラブル
食事を終え後片付けを済ませた礼子が、ベッドで上半身だけ起こしているおれに歩みより膝を折る。
「熱は下がりましたね、笠原さん」
礼子は額ではなく、おれのうなじに触れた。
女らしい細い手だった。
冷たくて気持ちいい。
「明日は会社に来られるかもしれませんね。今日はよく休んでください」
立ち上がろうとする礼子の腕を掴む。
おれは礼子を見つめ、気づくと礼子をベッドへ押し倒していた。
礼子がおれを見ている。
こんな状況でも表情を変えていない。
長くて綺麗な睫毛、綺麗な瞳。
「死にますよ?」
物騒なセリフを礼子が吐いた。
「おたくを抱いてからなら、それもいいな」
礼子はおれを見つめている。
「わたしが好きですか」
「そう思ってるよ」
おれは唇を重ねたが………
思考が途切れ礼子の身体に力なく被さった。
もう熱は下がっている。
これが礼子の云うバンパイア能力だったのかは分からない。
気絶したおれを、どかそうとしなかった。
礼子はそっと腕を回して抱き締める。
「無理しすぎです」
礼子の目元は髪で隠れていたが、目元から一筋の涙が流れ落ちていた。