バンパイア・ トラブル


おれは夢を見ている。
夢のなかでおれは、礼子の声を訊いた。



「笠原さんに昔、お会いしたことがあります。あの時はわたしはまだ中学生でした」



礼子が混雑した電車に乗っていた時だ。

お下げ髪に眼鏡の礼子は中年男に体を触られていた。
偶然かと思い避けたが違う。
追ってくるのだ。

礼子は恐怖で動けずにいた。



「おいおっさん。痴漢はやめな?おれ、見てたからな」



高校生のおれが男の肩を抱き込み腕を掴む。
ブレザーにシャツ姿でだらしなくボタンを開け、ネクタイは緩めに着けていた。
ただ単に苦しいのが苦手だったからなのだが、いかにもチャラい学生のおれ。



「あたしも見てたし!」
「マジサイテー」



おれの取り巻きのようなかわいいギャルが、中年男に冷たい視線を投げている。




「とりあえず次の駅で降りようか」
「な、なんだ君たちは!」
「あの子が抵抗できないから触ってたんだろ?やだねえ、おれより歳上なのに、尊敬できねぇな」



おれはギャルに礼子を介抱するように云い、一緒に降りて駅員に証言するように云った。

すると周りのサラリーマンやOLも自分も見ていたと証言協力を申し出る。



「あそ。じゃあ頼もうかな」



おれはどことなく気のない返事をする。

それは見ていただけで何も行動をしない大人への苛立ちだったのかもしれない。

おれが捕まえた男のカバンには盗撮したらしい画像が複数、残っており痴漢だけでは済まなくなった。


警察に身柄を引き渡し帰ろうとするおれを礼子かひき止める。




「ありがとうございました」
「いいよ、別に。気をつけて帰ってね」



おれは笑いかけ去ろうとしたが。




「あ、あのお名前を」
「笠原祐輔。じゃあね」



おれは後ろ姿で手を上げるとギャルと一緒に再び電車に乗り、礼子がそれを見送る。




「笠原祐輔さん。またお会いするなんて思いませんでした。あの時はありがとう………」

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