バンパイア・ トラブル
おれと千波礼子は近くの居酒屋に入る。
時間は夜六時をまわっていて、ちょうど仕事帰りの人間で混雑していた。
おれと礼子はカウンター席に並んで座る。
礼子からはおれの左頬が見えないように右側に座らせた。
生ビールの中ジョッキを二つ。
軽く乾杯する。
マスクを外すと喉が乾いていたおれは生ビールを流し込む。
普通に旨い。
「あー、うめぇ」
おれが云うとジョッキに口をつけていた千波礼子はテーブルにそれを置いた。
半分以上減っている。
結構、酒呑みかもしれない。
「ええ。おいしいです」
礼子は表情を変えずにお通しの枝豆をつまむ。
更にジョッキに口をつけ傾ける。
「もっと頼もうか?」
ビールが空になりそうな礼子に声をかけた。
「いえ。わたしにかまわずに。ありがとうございます」
礼子は表情をあまり変えない。
とりあえず、当たり障りのない話しをしようか。
「なんでうちに来たの?」
仕事のことだ。
おれは届いた串揚げを食べる。
「本に携わる仕事がしたかったんです。前は書店の店頭で働いてましたが、たまたまそちらの募集を見まして。転職しました」
礼子は真面目に答えてくれた。
礼子は漫画でも小説でも本が好きらしい。
家電の説明書も読むという。
家電の説明書なんか読んだことのないおれとは、真逆だな。
………という前置きはこの辺にしておいて。
ここからが本題だ。
「彼氏はいるの?」
おれは訊ねた。