バンパイア・ トラブル


おれと千波礼子は近くの居酒屋に入る。

時間は夜六時をまわっていて、ちょうど仕事帰りの人間で混雑していた。

おれと礼子はカウンター席に並んで座る。
礼子からはおれの左頬が見えないように右側に座らせた。

生ビールの中ジョッキを二つ。
軽く乾杯する。


マスクを外すと喉が乾いていたおれは生ビールを流し込む。
普通に旨い。


「あー、うめぇ」


おれが云うとジョッキに口をつけていた千波礼子はテーブルにそれを置いた。
半分以上減っている。

結構、酒呑みかもしれない。



「ええ。おいしいです」



礼子は表情を変えずにお通しの枝豆をつまむ。
更にジョッキに口をつけ傾ける。



「もっと頼もうか?」



ビールが空になりそうな礼子に声をかけた。



「いえ。わたしにかまわずに。ありがとうございます」



礼子は表情をあまり変えない。
とりあえず、当たり障りのない話しをしようか。



「なんでうちに来たの?」



仕事のことだ。
おれは届いた串揚げを食べる。



「本に携わる仕事がしたかったんです。前は書店の店頭で働いてましたが、たまたまそちらの募集を見まして。転職しました」



礼子は真面目に答えてくれた。


礼子は漫画でも小説でも本が好きらしい。
家電の説明書も読むという。



家電の説明書なんか読んだことのないおれとは、真逆だな。



………という前置きはこの辺にしておいて。

ここからが本題だ。



「彼氏はいるの?」



おれは訊ねた。


< 5 / 15 >

この作品をシェア

pagetop