夢物語
 「……そろそろ戻ったほうが」


 太陽が完全に水平線の下に消えたタイミングで、私は車に戻った。


 秋の夕暮れの肌寒さを感じたのと、このままいつまでこうしていられるのか、何となく不安を感じたからだった。


 「まだ帰らなくてもよくない?」


 「……」


 独身の私は、明日に影響が出ない時間に帰宅すれば誰も困りなどしないけど。


 あなたには彼女がいるくせに。


 一日音沙汰なしで、本当に心配にならないのだろうか。


 しかも休日なのに。


 お互い個人主義で、自由が認められていると西本くんは言うけれど。


 現にこうやって、他の女と一日中……。


 「とりあえず、晩ご飯食べに行かない?」


 運転席に戻った西本くんはそう言ってエンジンをかけ、車を発進させた。


 車は少しずつ札幌へと戻っていく。
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