夢物語
 次の年、ついに優くんは中三で受験生。


 夏を過ぎた辺りから、そろそろ受験勉強も本格化。


 私も大学四年生で、就職試験と実習や卒業論文などで忙しかったけど、合間合間に優くんの家庭教師を続けていた。


 いつしか優くんも背が伸びて、いつの間にか私の背を追い越していた。


 声も低くなってきた。


 年の離れた弟だと思っていたけれど、次第に追いつかれてきた感じで、背を抜かれた時に追い越されたような感覚も覚えた。


 「うちから二キロくらいのところにドーム式のスタジアムの建設計画があるって噂、真由先生も知ってる?」


 「えっ」


 よくよく聞くと建設予定地は西本家からも私の家からも二キロ程度の所らしい。


 「サッカーのワールドカップを誘致するために、札幌にもドームを作る予定なんだって」


 「ワールドカップ、本当に来るの?」


 つい最近、ドーハの悲劇という土壇場の痛恨の一弾による失点で、日本はまたしてもワールドカップ進出を逃していた。


 一度もワールドカップ出場歴がないにもかかわらず、大会を誘致?


 しかもこの札幌に?


 その時の優くんの話はあまりに荒唐無稽に感じられた。


 しかし、


 「ねえ真由先生、札幌でワールドカップの試合が開催されたら、一緒に行こう。二キロくらいならうちから歩いていけるよ」


 「ほんとに開催できたらね」


 大して本気にもせず、笑い飛ばしていた。


 もしもそれが実現したら……その頃には私も優くんも二十代のはず……。
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