夢物語
 それにしてもこうして急に、優くんと話ができるとは予想外。


 もしかしたら永遠に無理かとあきらめていただけに、突然の事態に戸惑いつつも安堵していた。


 子供を産む云々はともかく、籍を入れることに関しては周囲の人たちも心配しているので、そろそろ前向きに検討してみようと思った。


 縁あってこんなに長い間一緒に過ごしてきたのに、他人として生涯を終えるのは切なくもあったから。


 「よかった。真由さんがやっと決心してくれて。俺も亡き母の存在とかもあって意地を張っていたけれど、よくよく考えたら父さんが母と過ごした時間よりも、真由さんと過ごした時間のほうがとっくに長くなってるんだよね」


 振り返れば私が西本さんのそばにいるようになったのは二十二の時からだから……。


 亡き奥さんより私との時間のほうが長くなっていたんだ。


 「改めて……。今まで素直になれなくてごめんなさい」


 急に謝罪をされて私もびっくり。


 「あ、謝らないで。私こそ優くんのお母さんへの思いを踏みにじってしまって……」


 「これからもお母さんとは呼べないと思うけど」


 「お母さんなんて呼ばなくていいから。私は優くんのお母さんじゃないんだし、年齢も八つしか違わなくて、到底親子とは言えない……」


 「じゃ……。真由さん。これからも父のことをよろしくお願いします」


 今度は礼をされて驚いた。


 「私も……。今さらだけど、これからも西本さんを支えて行けるように、頑張るから」


 「助かります。これで後顧の憂いなく、仕事に専念できます」


 久しぶりに私に向けられた、優くんの笑みを見た。


 昔と何も変わらない……。


 「優くんも。大切な人がいるのなら、今度こそ幸せになってね」


 あの女の子が優くんに相応しいとは思えないけれど、優くんがいいというなら仕方ないと思った。


 優くんが満たされる場所ならば。


 「そう。そのことについて、こっちも報告したいことがあるんだ」


 「何?」


 きっとあの子と結婚するってことだ。


 「実は……、大切な人がやっと見つかったんだ」


 やはり。


 優くんが望むのなら、覚悟を決めて受け入れようと思った。


 母親にはなれないけれど、父親のパートナーとして。


 見守るべき立場として。


 「そう。ありがとう報告してくれて。これで私も安心」


 「一度失敗してるから、二度目はかなり慎重になったつもりだし、今度こそは何事もなくありたい」


 「私もそれが、最後であってほしいと願っている……」


 「今度また何かあったら、相手の人の人生もめちゃめちゃにしちゃうし」


 恵まれた容姿とすさんだ気持ちで、若い頃はいろんな女の子と付き合っては別れて……を繰り返してきたようだけど、これが最後の恋となりますように。


 「近々家に挨拶に来てね。西本さんにはもう話したんでしょ?」


 「父さんにはまだ。挨拶は近日中に予定を組むから。真由さんもいる日に」


 「楽しみにしている」


 たぶん気持ちは通い合わないと思うけど、優くんの幸せを祈るのが私のせめてもの償い。


 「きっと、真由さんとうまくいきそうな気がする」


 またしても私の心を見透かすような言葉。


 「でも……」


 相手の子も私という微妙な立場の人間には、どう接していいか迷うかもしれない。


 「性格的にも違和感ないと思うし。それに相手の人、真由さんと同い年なんだ」


 「え!?」


 私と……同い年?
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