夢物語
 ようやく冷静さを取り戻した男から、事の顛末を聞き出した。


 出産前に実家に帰省して以降、別居が続いていた奥さんとは、私が願った通りに。


 本格的に離婚に向けて話が進んでいて、合間を見て奥さんがマンションから荷物を運び出している最中だった。


 先刻電話がかかってきたので出ると、いきなり「不倫してるんだって!? 私聞いたんだから!」と切り出されたらしい。


 驚きつつも平然と無関係を装い、「誰がそんなこと言ってるんだ?」と問いただすと、奥さんはサークルメンバー「T」の名前を答えたという。


 「Tが?」


 私と同い年の、小心者のメンバーだ。
 

 「Tはどうしてそんな密告を?」


 「Tの奴、保険の営業してるでしょ。保険の勧誘目的でうちの奴に、あることないこと吹き込んだらしい」


 「そっか……」


 そのTという男は私たちのサークルのメンバーで、現在は保険担当の仕事をしていた。


 学資保険なども取り扱っており、子供の生まれる家庭は絶好の勧誘ターゲット。


 元々サークルで彼と親しかった繋がりもあって、せっかくだから自分の保険に是非……とのことで、Tは彼の家を訪れるようになった。


 保険に加入したのは彼の奥さんだったので、その後もTは保険の手続きなどで奥さんと連絡を取るようになっていたのだけど……。
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