夢物語
 「人のことあーだこーだ言ってる暇があったら、自分の心配していてほしいですよね。自分だって不倫しているくせに」


 そう、Tも不倫していたのだった。


 同じサークルで出会った、Sという十歳年上の人妻と。


 これまた競技開始が同時期だったSさんは、自分専用の車がなくて夏は自転車だったけど、冬は徒歩でサークルの活動場所である体育館まで通っていた。


 夜道の一人歩きを心配したサークルの代表者は、同じ方向のTに送ってあげるように指示したのだけど……。


 やがて行き帰りどころか、練習中も試合に出る際もずっと一緒にいるようになっていった。


 あまりに度が過ぎて注意する人もいたようだけど、結局は「大人の対応」ということで見て見ぬふりをする人たちが大多数の中、TとSは完全に調子に乗って……。


 「自分たちだって、不倫してるくせに」


 先に不適切な関係を開始したのは自分たちなのに、どうして正義の味方面して、人のことをあれこれ言うのだろう。


 「おかしなことをしている人たちって、自分たちのことを棚に上げて、周囲に『同類』を見つけた途端鬼の首を取ったように大騒ぎする傾向があるという。まさにそれだな」


 許せない。


 二人はグルになって、今まで自分たちに向かっていた「逆風」を、私たちに押し付けてきたのだ。


 絶対にTとSには、痛い目に遭ってもらおう。


 このままでは済ませないと心に誓った。
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